ページの先頭です
ここから本文です
  • Facebookでシェアする
  • LINEで送る

「小児期発症ぜん息で生物学的製剤による治療と移行期医療を経験した例」

最終更新日:令和7年3月28日 | 公開日:令和7年3月28日

ぜん息の発症と経過

ぜん息の子どもを持つ母です。子どもは4歳でぜん息を発症し、20歳を過ぎた今は、主にステロイド薬・β2刺激薬の合剤の吸入薬(フルティフォーム®)の使用で病状は落ち着いています。 はじめは、子どもが4歳の時、急に「息が苦しい」と訴えるようになったため、近所の小児科を受診しました。その時に専門医への受診を勧められましたが、咳症状が全くないことや親自身はぜん息の苦しさを経験した事がなかったこともあって「そこまで深刻ではない」と治療を前向きに考えていませんでした。当時は本人の辛さを理解できておらず、処方薬を漠然と継続したまま年月が過ぎました。
 

かかりつけ医から専門医の受診へ

小学校に入学してからも、息苦しくて眠れない夜がたびたびあり、夜間救急を受診することもありました。あとで考えると、血液検査のIgE値も1,000強でかなり高く、胸もペコペコ凹んでいたにも関わらず、吸入薬も補助具を使ってもきちんと吸えていないことを重く捉えておらず、一向に病状が改善していない状況でした。思い出すと子どもに申し訳ない気持ちで一杯です。 高学年になった頃、かかりつけ医から紹介されたアレルギー専門医(小児科)に診ていただくことになり、親自身がホッとした記憶があります。 それでもなかなか症状は改善せず、心肺運動負荷試験では階段の登り降りも厳しいという検査結果の現実を受け止めることができませんでした。元来、身体を動かすことが大好きだった子どもはそのことで悲しい思いをたくさんしました。

生物学的製剤の使用と成人移行支援

中学校に入って部活動や習いごと等で生活が多忙になってから、夜間に40℃以上の発熱が頻繁に起こるようになり、吸入薬をドライパウダータイプからミストタイプに変更し、マクロライド少量長期投与療法(クラリス®)を開始しました。また、当時、小児の適応が少なかった生物学的製剤であるオマリズマブ(ゾレア®)を使用することになりました。2週に1回の放課後の通院は、体育会系の部活を頑張っている本人にとっては休むこと自体がとても悔しい経験になりました。 しかし、半年程続けた頃から高熱はなくなり、息苦しさの程度も軽減してきました。その後も入院することはありましたが、段々と症状も落ち着き、生物学的製剤は20歳になるまで続け、無事に成人式を迎えることができました。 現在、アレルギー専門医からの紹介で呼吸器内科の医師に診ていただいています。 ここに至るまで改善したのは、伴走してくださった医療従事者の皆さまの温かい励ましの中で成長していけたからだと思っています。 また、生物学的製剤は薬剤費が高額ですが、小児慢性特定疾病医療費助成制度の利用ができ、とても感謝しています。

ぜん息の子どもの学校生活支援として思うこと

ぜん息の疾患があるお子さんに対して学校生活を送る上でのアドバイスがあるとすれば、教育関係者の方にぜん息の気道過敏性等の病態を知っていただけると助かることはもちろんですが、本人が「苦しい」と声を出せるような環境の整備や学校とのより良いコミュニケーションの構築が一番なのかも知れません。 ぜん息の子どもを持つ親としての感想ですが、集団生活の場である学校に「生活管理指導表」を提出しただけでは、発作が起こる環境要因や個々の体調に対して正しく理解し対応いただくことは、かなりハードルが高いように感じます。 我が子の場合は、本人が「(ぜん息のために)できないこと」や「発作予防のために必要なこと」を周囲に伝えることで発作の悪化要因を避けることができるようになり、重い発作に至るまで無理をしなくなったこともプラスになったように思います。共に、ぜん息という理由で過ごしにくい日常をより良くしていきましょう!

医師からのワンポイントメッセージ

重症ぜん息であっても健やかな生活を送るために、患者自身、患者が子どもであれば保護者が、ぜん息の適切な理解を深め、症状を正しく評価できるようになることは、とても重要であることが本例からわかります。 また、本児は理想的な医療機関に巡り合うことができていますが、医療機関の選択も、健やかな毎日を送るためのもう一つの重要な要素になります。そして、ぜん息の子どもが成長する中で、はじめて経験する家庭外での試練が、学校です。文部科学省は学校等におけるアレルギー対策を適正に実施できるよう、ガイドライン等を発出しています。しかし、すべての学校等で高いレベルのぜん息管理が行われているわけでは必ずしもありません。特に薬剤や管理方法の進歩で、ぜん息の軽症化が進んでいる中、一部の重症児にとっては、不理解からくる苦労が少なくないかもしれません。彼らが健康的で楽しい学校生活を送ることができるようにするためには、近道はなく、保護者と本人が繰り返し学校等へ理解を求めていくことが重要です。そこでの辛苦や経験は、もっともっと厳しい一般社会に出たときに、必ずプラスに働くことになるでしょう。

(昭和大学医学部小児科学講座 教授 / 昭和大学病院 小児医療センター長  今井 孝成 先生より)


このページは東京都 健康安全研究センター 企画調整部 健康危機管理情報課 環境情報担当が管理しています。

ページの終わりです
ページの先頭へ戻る