小児のぜん息
最終更新日:令和7年3月28日 | 公開日:平成29年4月21日
小児のぜん息とは
ぜん息は、ハウスダスト、ペット由来の抗原によるアレルギー反応やたばこの煙、激しい運動、ウイルス感染などさまざまな刺激により、気管支の収縮、粘膜のむくみ、分泌物(たん)の増加がおこることで空気の通り道が狭くなるアレルギー性の呼吸器疾患です。気管支の空気の通り道が狭くなることで息をする時にゼーゼー・ゼロゼロ・ヒューヒューというぜん鳴と呼ばれる音が聞こえたり、咳(せき)がでたり、進行すると呼吸困難になります。ぜん息急性増悪(発作)(以下、「急性増悪(発作)」を「発作」と記載)と呼ばれるこの呼吸困難を繰り返すのが特徴です。ぜん息発作は自然に、または気管支拡張薬などの治療によって治まりますが、救急受診、入院治療が必要になることがあり、まれに生命に関わることがあります。
さらに気を付けなければいけないことはぜん息発作症状がない時も、気道(気管、気管支)では炎症が存在していて、ぜん息発作が起こりやすい状態がいつも続いているということです。この慢性的な気道の炎症を治療することで、ぜん息発作がおこりにくい生活ができるようになります。
乳幼児期には、4割近くの子供達が風邪をきっかけにぜん鳴を経験し、ぜん息あるいはぜん息かもしれないという診断を受けています。しかし、小学校に入学する頃には、ぜん息と診断される人は、1割前後となります。それ以降は、ゆっくりと減少していきます。
ぜん息の発作を起こしたり誘発したりする原因
ぜん息があると、気道粘膜はとても敏感になっているので、さまざまな刺激で反応してしまいます。主な原因を示しました。どのような原因でぜん息発作を起こしやすいか自分で知っているとぜん息発作を予防することも可能です。
- タバコや花火などの煙
- 吸入アレルゲン(ダニのフンや死がい、ハウスダスト、カビ、動物の毛やフケ、昆虫の体の成分、花粉など)
- ウィルスなどによる呼吸器感染症
- 天候や季節(季節の変わり目や台風などの気象の変化など)
- 激しい運動(運動誘発ぜん息)
- ストレス
診断
ぜん鳴を伴う呼吸困難発作を繰り返す場合にぜん息と診断します。
そのためには、つぎのように問診をします。
①問診
- いつ頃から
- 症状
- どんな時に咳が出るか
- どんな音がするか(ゼーゼー、ヒューヒューなど)
- 頻度
- 咳の強さ(眠れない、しゃべれない、息苦しい)
- 咳以外の症状
- ぜん息以外のアレルギーについて(アレルギー性鼻炎、花粉症、アトピー性皮膚炎、食物アレルギーなど)
- 家族(血縁関係のある)のアレルギー疾患の有無
- 治療をしている場合は治療の様子(薬と使用期間など)
などを聞かれますので、受診の時にはメモしておくとよいでしょう。
②検査
ぜん息の診断や他の病気との鑑別のために次のような検査が行われることがあります。
- 血液検査・皮膚検査 ⇒ アレルギー体質かどうか、アレルゲンは何かを調べる。
- 胸部単純X線撮影 ⇒ 胸や気管支の構造に異常がないか調べる。
- 呼吸機能検査・気道可逆性検査・気道抵抗測定⇒ぜん息の特徴や気道の狭さを調べる。
- 呼気中NO(一酸化窒素)検査 ⇒ 気道に起きている炎症や傷の程度を調べる。
- 気道過敏性検査 ⇒ 気道が刺激に対してどれくらい敏感になっているか調べる。
重症度について
ぜん息がどのくらい重症なのかは症状の程度や起こる回数によって判定されます。治療前の重症度は以下の様に分けられます。医師は患者さんのぜん息の程度を見極めて薬を決めていきますので、ぜん息の症状の程度や回数をきちんと把握しておきましょう。既に治療を行っている人では症状の出かたとぜん息治療薬の使用状況を合わせて重症度を判断します。
治療前の臨床症状に基づく小児気管支喘息の重症度分類
重症度 | 症状程度ならびに頻度 |
---|---|
間欠型 | ・年に数回、季節ごとに咳、軽度喘鳴が出現する。 ・時に呼吸困難を伴うが、β2刺激薬の頓用で短期間で症状は改善し、持続しない。 |
軽症持続型 | ・咳、軽度喘鳴が1回/月以上、1回/週未満。 ・時に呼吸困難を伴うが、持続は短く、日常生活が障害されることは少ない。 |
中等症持続型 | ・咳、軽度喘鳴が1回/週以上。毎日は持続しない。 ・時に中・大発作となり、日常生活や睡眠が障害されることがある。 |
重症持続型 | ・咳、軽度喘鳴が毎日持続する。 ・週に1~2回、中・大発作となり、日常生活や睡眠が障害される。 |
(出典:一般社団法人日本小児アレルギー学会作成「小児気管支喘息治療・管理ガイドライン2023」より引用・一部改変)
次:治療治療
小児のぜん息の治療の目標は、最終的には寛解(服薬などの治療をしていなくても症状がない状態)・治癒を目指しますが、日常の治療の目標は、
- 症状のコントロールができる
- 呼吸機能が正常に近づく
- QOL(日常生活の質)が改善される
ことで、発作を起こさず健康な子供と同じような生活を送ることができることを目指します。
そのためには、ぜん息発作を鎮めるだけでなく、次に発作が起こらないようにすることが重要で、症状が落ち着いてからも治療を継続していくことが大切です。ぜん息治療のために、以下の3つのことが重要です。
治療の基本
- 医師の指導のもとで定期的な服薬や吸入を行う『薬物療法』
- 患者さんや家族が協力して生活環境から原因・悪化因子を減らす『環境整備』
- 自ら治療に参加し、続けられるように正しい知識と判断力をつける
『自己管理(セルフケア)の力をつける』
薬物療法(医師の指導のもとで定期的な服薬や吸入を行う)
ぜん息を治療するための薬は「長期管理薬」と「発作治療薬」の2種類あります。
発作治療薬(レリーバ)
発作が起きた時に、狭くなった気道を広げて呼吸を楽にする薬です。吸入薬や飲み薬などがあります。吸入薬のほうが飲み薬に比べて直接気道に働きかけるためより早く効果が現れます。しかし発作治療薬は発作を一時的に改善するだけなので、日々の良好な管理のためには、毎日定期的に長期管理薬を使用し、日ごろから気道の炎症を抑えることが重要です。
長期管理薬(コントローラー)
苦しくない時も気道の炎症を鎮めて発作を予防する吸入ステロイド薬などです。
症状が出ていなくても気道の炎症は続いているので、虫歯予防のために毎日歯磨きをするように、毎日定期的に長期管理薬(吸入ステロイド薬など)を用いて「気道の炎症」を抑えていくことがとても大切です。
上手に吸入ステロイド薬などを吸入するために大切なこと
吸入薬は上手に吸入しないと期待する効果が現れません。上手に吸入するためには、吸入のコツがあるので、コツを掴んで確実に吸入しましよう。
吸入薬には液状のタイプ(機械式吸入器で吸入します)、エアロゾルタイプ(シュッとガスとともに噴霧されるタイプ)、ドライパウダータイプ(吸い込んだときにその勢いで吸入するタイプ)があります。年齢などを考慮して、最も効率的に吸入できるタイプが処方されます。特にエアロゾルタイプは吸入が難しいことがあり、そのようなときにはスペーサー(吸入補助器具)を使うことが勧められます。
せっかく吸入していても、吸入方法が適切でないと吸入の意味がありません。主治医や薬剤師などに日頃の吸入方法を時々確認してもらいましょう。
吸入器の種類や吸入の方法の詳細は、独立行政法人環境再生保全機構作成「おしえて先生!子どものぜん息ハンドブック」をご覧ください。
生物学的製剤
十分な長期管理を行ってもコントロール不良な重症患者に対して、注射薬(生物学的製剤)の投与が検討されます。現在、小児のぜん息に対して保険適用となっている生物学的製剤はゾレア®、ヌーカラ®、ファセンラ®、デュピクセント®、テゼスパイア®の5種類です。どの生物学的製剤を用いるかは、患者さんの特徴(年齢、体重、アレルギー疾患の合併症等)や検査所見を参考に決められます。
関連情報
独立行政法人環境再生保全機構「ぜん息などの情報館」
小児のぜん息と成人のぜん息に関する基礎的な知識や治療、日常生活での対応など、具体的に分かり易く説明されています。
このページは東京都 健康安全研究センター 企画調整部 健康危機管理情報課 環境情報担当が管理しています。