働く女性ががんになったら
20歳代から50歳代後半までの就労世代では、男性よりも女性のほうががんになる人が多いことをご存知ですか。女性にとっては、がんになる人が増える20歳代から40歳代は、就職・結婚・出産・育児等のライフイベントが盛り沢山の時期と重なります。そんな中、突然がんと診断されたら…。「仕事は続けられるのか」、「子どもは産めるのか」などなど分からないことも多く、不安でいっぱいになることでしょう。
がんと診断されても、「治療と仕事を両立させたい」と望む女性は少なくありません。そこで、がんになった後の治療や生活について、誰に相談したらよいのか、どのような支援策があるのかなど、ぜひ知っておいてほしい基本知識と支援情報をお届けします。がんになっても自分らしく生活していくための大きな支えとなるはずです。
がん治療と仕事は両立できる
がんになっても仕事を辞めない人が増えている
がん検診の精度が上がり、現在では、がんによっては早期発見、早期治療が可能になってきました。なかでも女性に特有の乳がん、子宮頸がんは早期発見により治る可能性が高いがんです。
がんと診断されると、以前は、「職場に迷惑をかけるから」、「体力・気力的に仕事を続けるのは難しいかも」と、退職してしまう人が多くいました。しかし、働く世代にとって、仕事は経済的な面だけでなく、生きがいとしても重要な支えです。
最近のがん治療は、かつての「長期入院」から「通院治療」へと大きくシフトしています。また、体への負担を抑えた治療が可能になってきたことや、コロナ禍に大きく進展した働き方の変化によって、がんを抱えながらも働き続ける人が増えています。
厚生労働省によれば、仕事を持ちながらがん治療のため通院している人は、平成31年度(2019年)の調査では男女合わせて44.8万人(このうち女性は26.2万人)、平成28年度(2016年)の調査と比較して約8万人増加しています。医療の進歩に伴って、がんの闘病スタイルは、「治療に専念する」から「治療と仕事を両立する」へと変わりつつあります。
仕事を持ちながらがん治療のため通院している女性
- [2016年] 注:1)入院者は含まない。2)総数には、仕事の有無不詳を含む。3)「仕事あり」とは、調査の前月に収入を伴う仕事を少しでもしたことをいい、被雇用者のほか、自営業主、家族従事者等を含む。なお、無給で自家営業の手伝いをした場合や、育児休業や介護休業のため、一時的に仕事を休んでいる場合も「仕事あり」とする。4)熊本県を除いたものである。
- 資料:厚生労働省「2016年国民生活基礎調査」を基に同省健康局にて特別集計したもの
[2019年] 注:1)入院者は含まない。2)「仕事あり」とは、調査の前月に収入を伴う仕事を少しでもしたことをいい、被雇用者のほか、自営業主、家族従事者等を含む。なお、無給で自家営業の手伝いをした場合や、育児休業や介護休業のため、一時的に仕事を休んでいる場合も「仕事あり」とする。
- 資料:厚生労働省「2019年国民生活基礎調査」を基に同省健康局にて特別集計したもの
不安や悩みは一人で抱え込まない
がんと診断されたとき、「周りにどう伝えれば良いか」、「キャリアに影響しないか」、「病院はどうやって選ぼうか」、「みんなはどうしているのか」など、多くの方が悩み、不安になります。一人で抱え込まず、まずは、「がん相談支援センター」に相談してください。がん相談支援センターでは、がんの治療を受ける上での不安や悩み、治療と仕事の両立などについて、看護師やソーシャルワーカー等が、電話や面談による相談に対応しています。
がん相談支援センターは、厚生労働大臣が指定した「がん診療連携拠点病院」のほか、東京都が指定する「東京都がん診療連携拠点病院」に設置しています。
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関係者の協力が不可欠
がんの治療ではさまざまな副作用を伴います。その症状には個人差があり、治療の進展具合によっても異なります。また、がんは入院や治療が終了しても、長く付き合っていく病気であるため、仕事との両立を図るためには、関係者の協力がぜひとも必要になってきます。
患者さんを支えるキーパーソンと、両立支援の流れをみてみましょう。
両立支援の流れ
両立支援は患者本人の申し出から始まります
- ・職場に就労継続の意思を伝える
- 両立支援を受けるために、最初にやるべきことは、職場の上司をはじめ、人事部や総務部の担当者に就労継続の意思を伝え、協力を依頼することです。担当者は、主治医に提供するための「勤務情報提供書」の作成を支援してくれます。
- ・主治医に就労継続の意思を伝える
- 勤務情報提供書を持参して、主治医に両立支援を依頼します。主治医は、治療と仕事を両立するための治療計画を検討するほか、職場に対して病状を伝えるための「診断書」や、治療や仕事の両立にあたり必要な情報を「主治医意見書」として提供します。
- ・就業上の措置を検討
- 職場では、主治医からの診断書や意見書を踏まえ、配置転換や勤務時間の変更といった就業上の措置を検討し、治療と仕事を両立しやすい環境を整えます。
誰かに聞いてもらうことが何より大切
がんという病名を周囲の人に伝えることを躊躇する人もいますが、治療と仕事の両立を目指し、職場からの支援や配慮を受ける必要があるなら、病状を関係者に正直に伝えることを避けることはできません。誰に何を伝えたらよいか迷うようなら、たとえばかかりつけ病院のがん相談支援センターの相談員や、そこで相談を受け付けている社会保険労務士に相談してみるのも一つの手です。他にも、産業保健総合支援センターやハローワークの長期療養者支援窓口、治療就労両立支援センターなど、さまざまな機関が病気を抱える人の悩みや相談に応じています。もし、がんになったら、一人で抱え込まず、まずは誰かに相談してみましょう。思いもよらない解決策に出会えるかもしれません。
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がん患者の生殖機能温存治療について
がん治療による生殖機能への影響
がん治療として行う手術や薬物(化学)療法、放射線治療などにより、妊孕性(妊娠するための力)が低下し、治療後に子どもを授かることが難しくなる場合があります。子宮や精巣など生殖にかかわる臓器以外の場所のがん治療であっても、男女を問わず影響が出る場合があります。
しかし、近年では、不妊治療の技術を応用した「生殖機能温存治療」が普及し、がん治療後でも子どもを授かることができるようになりました。生殖機能温存治療とは、がん治療の前に卵子や精子、受精卵や卵巣組織を凍結保存し、がん治療後にこれらを用いて妊娠・出産を目指す治療法です。
がんと診断された際、将来子どもを持ちたいのであれば、がん治療を開始する前に、主治医やがん相談支援センターの相談員に相談しましょう。
生殖機能温存治療費の助成制度
東京都では、生殖機能温存治療を受けるがん患者さんのための助成制度を設けています。申請には条件や期限があります。詳しくは、東京都のホームページ「東京都がんポータルサイト」で確認してください。また、わからないこと、疑問に思うことは納得のいくまでがん相談支援センターに相談することをおすすめします。
生殖機能温存治療は、あくまで選択肢の一つです。がん治療後も生殖機能が低下せず、子どもを持つことができる可能性もあります。また、もし生殖機能が低下しても、里親制度などで子どもを持つ方法もあります。もちろん、子どもを持たないという選択肢もあるでしょう。まずは夫婦や家族でしっかり話し合うことが重要です。