脳卒中による脳損傷の程度により、手足の麻痺や筋力の低下、筋緊張の異常(痙縮)、言語障害、認知機能の低下、うつや不安等の感情の変化などが起こります。このような後遺症により、日常生活の活動度が低下し、介護が必要な状態となることがあるとともに、心理的なサポートも必要となります。
後遺症の中でも、高次脳機能障害、失語症、てんかん、摂食嚥下障害は、外見からはわかりにくい後遺症です。
また、脳卒中後に認知症になる方も多くいらっしゃいます。
後遺症を患う方々が、社会で安心して生活していくため、周囲で関わる方々の後遺症に関する理解が必要です。
高次脳機能障害は大きく「認知障害」と「社会的行動障害」にわけられます。認知障害としては、記憶障害、注意障害、遂行機能障害、失語、失行、視覚認知障害などがあります。社会的行動障害としては、感情コントロール不良、固執、意欲低下などがあります。
<認知障害:理解したり考えたりする能力の障害>
など
<社会的行動障害:社会生活をするうえでの障害>
など
詳しい症状と対応のヒントに関する情報について
医師が、原因となる病気などの事実、上記の症状による社会生活の制約、MRIやCTなどの検査による脳の病変を確認し、高次脳機能障害と診断します。
詳しい診断基準について
高次脳機能障害には医学的リハビリテーションと社会的リハビリテーションの視点からの関わりが求められます。2つの境界を明確にすることは難しいですが、一般的に医療として行うもの、あるいは指導をもとに行われるものを医学的リハビリテーションといい、社会的サービスの活用あるいは患者さんが取り組むことを社会的リハビリテーションといいます。2つを合わせて、高次脳機能障害のリハビリテーションといいます。具体的な医学的リハビリテーション手法には、以下のようなものがあります。
認知療法:患者さんの認知機能を向上させるためのトレーニングを行います。例えば、注意力や記憶力の向上、問題解決能力のトレーニングなどが含まれます。
運動療法:体力向上を通じて、患者さんの身体的な機能を改善します。これにより、日常生活での動作や移動の能力を向上させることができます。
言語療法:言語障害を改善するためのトレーニングを行います。これには、言葉の理解や表現能力の向上、文章の組み立てやコミュニケーションスキルの向上などが含まれます。
日常生活スキルのトレーニング:日常生活で必要なスキルやタスクを練習し、独立した生活をサポートします。例えば、自己管理能力の向上や家事や料理のスキルのトレーニングなどがあります。
就労支援(専門相談・社会生活評価プログラム・就労準備支援プログラム・職業(職能)評価)(東京都心身障害者福祉センター)
治療と仕事の両立支援・就労支援
事例(高次脳機能障害)
支援マニュアルNo.1 高次脳機能障害の方への就労支援
支援マニュアルNo.11 高次脳機能障害者のための就労支援 ~対象者支援編~
支援マニュアルNo.14 高次脳機能障害者のための就労支援 ~医療機関との連携編~
東京都高次脳機能障害支援普及事業(東京都心身障害者福祉センター内)
とうきょう高次脳機能インフォメーション(東京都心身障害者福祉センター)
失語症とは、脳卒中や事故により、言葉に関わる脳の領域が損傷を受け、「話す、聞く、読む、書く」ことが不自由になる障害です。全国に失語症のある人は150万人と言われています。 言葉の困難さを自分で伝えることが難しいので、周囲の人の正しい理解と適切な対応が求められます。
失語症の治療には、言語療法が一般的に行われます。言語聴覚士は、患者の言語能力を評価し、適切な治療計画を立てます。治療の目標は、患者がコミュニケーション能力を回復し、日常生活での言語の使用を改善することです。具体的な治療方法には、言葉の練習、コミュニケーション戦略の学習、補助的なコミュニケーション手段(例:画像やジェスチャー)の使用などが含まれます。
失語症者向け意思疎通支援者養成事業
失語症者向け意思疎通支援者養成事業
失語症 コミュニケーションのしおり
失語症 ポスター・しおり
日本失語症協議会ホームページ
失語症者向け意思疎通支援者養成事業PR動画「失語症のある人が困ること~工夫と支援~」
脳卒中の約10%程度の方にてんかんを合併するとされており、高齢者発症のてんかんの約半数が脳卒中後のてんかんと考えられています。
一般的には脳梗塞よりも脳出血で危険度は高く、脳卒中が重症であるほどてんかんを発症する危険性も高くなります。一旦発症すると、発作の再発防止のために抗てんかん発作薬の内服を必要とします。症状は様々で、けいれんをする方もいれば、物忘れのような認知症に似た症状を来す方もあり、適切な問診や脳波検査などが必要となります。
てんかん発作は、大脳の神経細胞(ニューロン)の活動が突然乱れることによっておきます。ほとんどのてんかん発作は2~3分以内に収まり、特に症状を残しません。発作の間は、気持ち悪さを感じたり、意識を失ったり、手足のけいれんを起こしたりすることがあります。発作の症状は患者さんによってさまざまです。
国立研究開発法人国立精神・神経医療研究センター病院(小平市小川東町四丁目1番1号)
地域のてんかん診療の拠点として、てんかん診療支援コーディネーターを配置し、患者や家族への相談支援、他の医療機関や自治体・関係機関との連携、患者・家族・地域住民や医師への教育・啓発活動などを行っています。
東京都てんかん支援拠点病院ホームページ
てんかん治療や相談支援、普及活動などのほか、全国支援センターとして、各支援拠点病院から集積したデータの分析・評価、地域連携や支援体制のモデルの研究・開発、全国てんかん対策連絡協議会の設置などを行なっています。
てんかん全国支援センター
てんかんのある人とその家族が安心して暮らすことを応援するための啓発活動・要望活動・セルフヘルプ活動などを行っています。「相談ダイヤル(無料)」も開設しています。てんかんのことで困ったらお気軽にお電話ください。
日本てんかん協会
脳卒中後には、食べ物をうまく食べられず・飲み込みづらくなる「摂食嚥下障害」を合併することがあります。脳卒中発症まもなくは約30%~60%の患者様が摂食嚥下障害を合併するものの、早いうちから回復する場合が多いです。
しかし、脳卒中発症から半年経過しても摂食嚥下障害が後遺する患者様は約10%いるとされます。この摂食嚥下障害が原因となり、唾液や食べ物を飲み込むときに、誤って気管に入り、誤嚥性肺炎をきたすことも問題となります。
摂食嚥下障害が後遺しお困りの場合は、耳鼻咽喉科による「嚥下外来」で相談し、患者さんの嚥下状態に合わせた食形態、姿勢、工夫について説明を受けて頂くことをおすすめします。適切な方法で、栄養をしっかり確保することは、摂食嚥下障害への対策、誤嚥性肺炎の予防としても重要です。
<監修>
安保 雅博(東京慈恵会医科大学附属病院副院長、リハビリテーション科 主任教授・診療部長)
心筋梗塞など心臓病の治療を受けた後、息切れがする、倦怠感がある、手足がむくむなどの症状がみられることがあります。このような場合は心筋梗塞の後遺症で心不全になっている可能性あるため、すぐに医療機関を受診しましょう。
心不全の初期症状について(チェックリスト)
<監修>
清水 渉(日本医科大学大学院医学研究科 循環器内科学分野 教授)
山本 剛(日本医科大学付属病院 心臓血管集中治療科部長)
ペースメーカとは、心臓を電気刺激して脈拍数を確保するための植込み型医療機器です。不整脈という病気の中で、脈が異常に遅くなる徐脈とよばれる病気の方がペースメーカ植込みの適応となります。
心室細動などの致死性不整脈を認める方に植え込む医療機器です。突然心臓が、異常に早く拍動し血液を送るポンプとしての役割を十分に果たせなくなったときに電気ショックでその異常拍動を止め、正常な拍動を取り戻す働き をします。また、脈が遅くなったとき(徐脈)にはペースメーカと同様の働きをします。
心臓の収縮するタイミングが場所によりずれているために重症な心不全を認める方で、その動きを調整し、心臓の収縮能を改善させる植え込み型医療機器(CRT又はCRTD)です。
ペースメーカ、ICD,CRTについて、もっと知りたい方は、こちらのサイトをご覧ください。
日本不整脈デバイス工業会
IMPELLA(インペラ)とは、心臓病が原因でショックに陥った際、一時的に心臓の代わりとなって全身に血液を送る循環を補助するための超小型のポンプを内蔵したカテーテル装置です。薬物療法では効果がみられない重症の心筋梗塞や重症心不全の方の治療などに用いられます。
植込型補助人工心臓(VAD)は、弱った心臓のかわりに血液を全身に送り出す機械です。薬物療法を行って改善がみられない重症心不全患者に対して適応となる治療法です。「心臓移植適応」と判定された方のみ受けていただくことのできる治療法でしたが、2021年5月からの適応拡大により、心臓移植適応の「ない」方に対しても、心不全の最終治療(Destination Therapy; DT)として、一定の条件を満たせば、受けていただくことのできる治療法となりました。実際には、体の中に血液ポンプを装着し、ドライブラインという1本のケーブルがお腹から体の外に出ます。体の外には、血液ポンプを動かすためのコントローラーと、電源共有のための電源バッテリーを装着することになります。充電した電源バッテリーを交換してもらいながら、日々の日常生活を送っていただきます。機器の取り扱いに慣れ、リハビリが進めば退院でき、環境が整えば社会復帰も可能です。
重症心不全患者には補助人工心臓だけでなく、心臓移植も適応となりえます。心臓移植は、弱った自分の心臓を取り出し、提供者(ドナー)から臓器提供いただいた心臓を新たに移植する治療法です。心臓移植は重症心不全患者の生命予後、QOLを大きく改善する治療法です。
ペースメーカ、植込型補助人工心臓(VAD)、心臓移植について、もっと知りたい方は、こちらのサイトをご覧ください。
国立循環器病センター
<監修>
清水 渉(日本医科大学大学院医学研究科 循環器内科学分野 教授)
山本 剛(日本医科大学付属病院 心臓血管集中治療科部長)