リハビリは、過去と未来を繋ぐもの

プロフィール

さくらさん(現在29歳)

  • 2015年11月 脳動静脈奇形による小脳出血を発症(当時21歳)

 高校時代、私は将来『人の役に立つ仕事がしたい』という想いから、福祉の仕事に興味を持ちました。そして、その想いが覚悟に変わったのは、大学3年生(当時21歳)の時に発症した小脳出血がきっかけでした。これは脳動静脈奇形によるもので、私もそして家族も知らなかった病でした。

急性期病院に入院していた頃(2015年11月)

 そこから、約半年間の入院生活が始まりました。福祉系の大学に通っているにも関わらず、脳出血等の知識はほとんどありませんでした。急性期病院へ入院した当初は四六時中続く頭痛と闘う日々でした。症状が落ち着き、シャワーを浴びて長かった髪の毛がサラサラになった時に初めて泣けたのを覚えています。開頭手術前日は、不安そうな私に対して執刀医の先生が「うん。手術しやすい頭だ」と頭を触りながら言ってくれました。その言葉はどんな言葉よりもぴったりで、優しい言葉でした。

 術後は全身麻酔からの目覚めが予定より遅れる等、様々な困難があったようですが、色々な奇跡がおこり回復期リハビリ病院への転院が決定しました。

 私にとって、一番辛かったのはこの時期かもしれません。治まらない頭痛やめまい。立つことも右手が震えて字も上手く書けない。悔しいとか悲しいとか、ドラマでよく見る『なんで私が』という怒りを持つパワーもなく、色んな感情を捨ててしまっていました。しかし、周囲は就活を始める時期だった為、『早く退院して周りに追い付かないと』という焦りはあり、出来ないのにも関わらず、退院するために入院当初の体力測定に精一杯臨みました。心はもうボロボロでした。

リハビリ病院入院時、作業療法士に勧められて書いていた日記

 私の頭は後頭部の下部分のみの剃毛でしたが、自分自身が触りたくないことと、人に見られたくないという気持ちから常にニット帽を被っていましたし、首の痛みからずっと下を向いていました。今思えば凄く話しかけにくかったと思います。しかし、「前に友達がさくらさんと似たような病気になったんだ。でも、今は社会復帰して働いているんだよ」と話しかけてくれた方(ケアワーカー)がいました。その他にも、私の言えない想いを汲み取ってくれる方(言語聴覚士)や「社会福祉士を目指すあなたにとって、この経験はいわば短期留学だよね」(作業療法士)、私との会話の話題を一生懸命考えて歩行訓練してくれる方(理学療法士)など、多くの方が気にかけてくれていることに気が付きました。それがただ単純に嬉しく、私が頑張って回復したら喜んでくれるかな、そんな気持ちがだんだんと芽生えました。

 リハビリの辛いところは、『初めてやることへの前向きなチャレンジ』ではなく、『今まで当たり前に出来ていたことに挑戦する』ということだと思います。『昨日出来たのに今日出来ない』そんな時もあります。しかし、沢山の声かけから、『もう一度生きなおそう』と思うことが出来ました。そして、今は休学してリハビリに専念し、退院後に国家資格である社会福祉士を取得することを決めたのです。このように決心してからは、セラピストとのリハビリの時間以外も字を書いたり、病院の中庭を歩くなど自主練を繰り返しました。

リハビリ病院入院時に履いていた靴

 その結果、2016年5月に回復期リハビリ病院を退院し、秋から大学へ復学。2017年秋に無事卒業。そして毎日勉強を続け、2018年に社会福祉士の試験に合格しました。通学するだけで体力が削られるような感覚でしたが、どんな時でも心の芯まで折れずに努力を続けることが出来たのは、沢山の支えがあったからです。

 それから私は社会人になり数年が経ちました。これからもこの過去を忘れることはありません。病気になったこと、障害があった過去を色んな人に話していくことを今後の目標にしたいです。多くの方にお世話になった私が発信をしていくことが、私に出来る恩返しの一つなのではないかと信じているからです。

外来でリハビリを続けながら念願の秋卒業

患者ご本人様へ

 現在、私は地域福祉を推進する団体で週5日休まず働いています。「病気を経験して良かった」と簡単に言うことは出来ませんが、「嫌なことばかりではなかった」と胸を張って言えます。厳しいリハビリを乗り越えて今があるということ、自分が闘病していたからこそ、現在の仕事で役立つことがあります。あの時言われて嬉しかったことや悲しかったことは、どちらも大切な財産です。そして何より、沢山の人との出会いによって、私の人生はより濃くかけがえのないものになりました。

 私はあなたの想いも受け止めた上で応援しています。

リハビリ病院『患者と家族の会』の講演(2023年12月)

患者ご家族様へ

 本当に厳しい状況にいた時(ICUにいた時など)は、私自身記憶がほとんどありません。だからこそ、ご本人をそばで見ているご家族の方が辛い気持ちだと思います。その時は決して一人で抱え込まず、友人や病院、地域の相談窓口など周りの人を頼ってください。あなたが元気でいることをご本人も望んでいるはずです。

社会復帰をした際助けてもらったもの

・ヘルプマーク
 通学時、体力的な問題で立っていることが辛い時が多々ありましたが、見た目では分からない為、電車に乗る際はリュックにつけていました。このマークを見て席を譲ってくださる方もいらっしゃった為、本当に有難かったです。